FXで破産しないための「破産確率」入門 意味、下げ方、測り方と見直しの目安

Butterflyとは

FXで本当に怖いのは「当てが外れること」ではなく、連敗や高レバレッジで資金が尽きること。本稿は破産確率の基礎から、1回損失1~2%・最大実効レバ上限・ATRに基づく損切りなど実務的な下げ方、証拠金維持率や相関管理、日次・週次の損失リミットまで整理。さらに連敗法とモンテカルロでの測り方、目標水準と見直し頻度も解説し、今日から“負け方”を設計して生存率を高める方法を示します。

「破産確率」って何?FXで気にしないと何が起きるの?

「破産確率」って何?

まずは“資金が尽きる確率”の正体

破産確率(Risk of Ruin)とは、トレードを続けるうちに資金が一定の下限(トレード継続が不可能になる水準)まで減ってしまう確率のことです。

FXでは、証拠金維持率が下がると強制ロスカットが発動します。

つまり、破産確率とは「強制ロスカットや想定する撤退ラインに到達して、事実上トレードを継続できなくなるリスクの大きさ」を数値で捉えようとする考え方です。

この考えはギャンブラーの破産(Gambler’s Ruin)という古典的な確率論に由来します。

勝ちと負けを繰り返すゲームでは、たとえ期待値がややプラスであっても、資金管理を誤れば連敗によって口座が耐えられなくなることがあります。

FXのようにレバレッジが使える市場では、1回あたりの損失が資金に対して大きくなりがちで、破産確率の管理は最重要テーマと言えます。

破産確率を左右する4つの要素

  • 初期資金:同じ戦略でも資金が小さいほど、同じ比率の損失で致命傷に近づきやすくなります。
  • 1回のリスク(資金に対する損失割合):1トレードで資金の何%を失う設計か。2%と10%では連敗への耐性が桁違いです。
  • 勝率と損益率:勝率p、平均利益/平均損失の比Rが高いほど生き残りやすく、低いほど連敗やドローダウンに弱くなります。
  • 連敗の出やすさ(分散と相場環境):ボラティリティの急変、相関の高い同時ポジション、ニュースイベントなどは、損失のクラスタリング(連続発生)を増やします。

これらは掛け算の関係に近く、どれか1つが極端に悪いと全体の破産確率が跳ね上がります。

戦略の期待値がプラスでも、1回のリスクが大きすぎれば口座は持ちません。

破産確率を気にしないと、実際に何が起きるのか

1. 強制ロスカットと追証の頻発

高レバレッジで含み損が増えると証拠金維持率が急低下。

相場の「普通の揺れ」でも、維持率が基準を割り込んで強制ロスカットが発動します。

これが続くと、入金→ロスカットの悪循環に陥りやすくなります。

2. ドローダウンからの回復が指数的に難しくなる

資金が50%減ると、元に戻すには100%の利益が必要です。

30%減なら約43%の利益が必要。

下がるときは足し算、戻すときは掛け算という非対称性が、破産確率を無視した運用を致命的にします。

3. 心理の崩壊とルール逸脱

連敗や大きなドローダウンは、取り返そうとする焦りを生み、ナンピン、ストップ外し、過剰なロットなどのルール違反を誘発します。

結果として損失のクラスタリングが進み、破産確率が一気に上がります。

4. 好機に参加できない機会損失

本当に稼げる局面が来たとき、資金や維持率が不足していて「入れない」。

この機会損失は、長期のパフォーマンスを大きく削ります。

ざっくり見積もる:あなたの口座の“壊れやすさ”簡易チェック

厳密な数式に踏み込む前に、直感的に把握できるチェックを紹介します(独立試行・固定比率という単純化を仮定)。

ステップ1:1回のリスクを決める

資金に対して1回の損失が何%か(f)。

たとえば2%や10%など。

ステップ2:撤退ライン(破産ライン)を決める

資金が初期の何%まで減ったら“機能的破産”と見なすか。

強制ロスカット手前や50%など、現実的なラインを決めます。

ステップ3:そのラインに達するまで何連敗耐えられるか

固定比率fで連敗すると、資金は(1−f)^L倍に縮みます。

これが破産ラインTに等しくなるLを求めると、おおよそ L ≥ ln(T)/ln(1−f)。

  • f=10%、T=50%なら L ≥ ln(0.5)/ln(0.9) ≈ 6.6 → 7連敗で半減。
  • f=2%、T=50%なら L ≥ ln(0.5)/ln(0.98) ≈ 34.3 → 35連敗で半減。
ステップ4:その連敗が起きる確率をざっくり見る

勝率をp、負ける確率をq=1−pとすると、連続L敗の確率は単発ではq^L。

N回のトレード内で1回以上起きる確率の近似は、1−(1−q^L)^(N−L+1)。

  • 例1:p=0.5、f=10%、T=50% → L=7。100回のトレードで7連敗が一度でも起こる確率はおおよそ 1−(1−0.5^7)^(94) ≈ 52%。つまり、半分以上の確率で資金が半分に。
  • 例2:p=0.5、f=2%、T=50% → L=35。100回で35連敗の確率はほぼゼロ(約数十億分の1レベル)。

現実の相場は独立ではなく、トレンドやボラの偏りで損失が連鎖しやすいことを考えると、上の値より「起きやすい」と見ておく方が安全です。

破産確率を下げる実践アクション

1. 1回のリスクを資金の1~2%に制限

資金×1~2%を「1トレードの最大許容損失」に設定し、逆指値(ストップ)からロットを逆算します。

2%を超えた運用は、連敗に対する耐性が急速に低下します。

2. レバレッジの天井と維持率の下限を数値で固定

口座全体での実効レバレッジ上限(例:3~5倍)と、証拠金維持率の下限(例:800%や1,000%)を定義。

下限を割ったら自動的にポジションを落とすルールを用意します。

3. ストップは「価格」ではなく「金額」から決める

まず失ってよい金額(資金×f)を決め、テクニカル上の無効化ポイントまでの距離からロットを逆算。

ストップを置けない場所にしか機会が無いなら見送る判断を習慣化します。

4. 期待値のプラスを確認(勝率×損益率のバランス)

期待値Eは概念的に「E=勝率p×平均利益 − 敗率q×平均損失」。

損益率R=平均利益/平均損失を用いるなら、Eがプラスになる目安は p×R > q。

勝率が低くてもRが高ければ生き残れますが、R<1で高勝率を狙う戦略はドローダウンが深くなりやすい点に注意。

5. 同時ポジションの相関を下げる

同じ方向性や同じ指標に連動する通貨を多重に持たない。

イベント前のエクスポージャー削減、時間分散(エントリーの分割)などで連敗のクラスタリングを避けます。

6. 事前に“損失のフタ”を用意する
  • 日次・週次の最大損失を資金のX%で固定(例:日次3%、週次6%)。達したら必ず取引停止。
  • 最大ドローダウンの警戒ライン(例:資金−10%)でロット半減、−20%で新規停止等の段階ルール。
7. ボラティリティ連動のロット調整

ATRなどのボラティリティ指標を使い、ストップまでの距離が広い(荒い)日はロットを小さく、狭い日はやや大きく。

常に「金額リスク」が一定になるよう保ちます。

8. 余裕資金で運用し、生活口座と分離

入出金を分け、生活費を巻き込まないことで、心理的な圧力やルール逸脱を抑えます。

急な追証リスクを減らす意味でも必須です。

モニタリング指標:日々チェックする“生存KPI”

  • 最大ドローダウン(今月・通算)
  • 連敗数と過去最大連敗の更新状況
  • 1回あたり平均損失の資金比(2%を超えていないか)
  • 口座の証拠金維持率と実効レバレッジ
  • 勝率p、損益率R、期待値Eの移動平均(戦略劣化の検知)

赤信号の一例:維持率が定義下限を1度でも割った/日次損失が資金の3%を超えた/最大連敗が記録更新を続けている。

これらはロット縮小や取引停止のサインです。

よくある誤解と落とし穴

高勝率=低破産確率ではない

損切りを極端に広く、利確を極端に狭くすれば勝率だけは上げられます。

しかし損益率Rが低いほど、たまの損切りが致命傷になりやすく、連敗時の下げも深くなります。

ナンピンは破産確率を下げない

平均取得価格を良くするように見えて、実際は「1回のリスク」を膨らませます。

想定外の値動きが1度来るだけで、口座が崩壊する尾の太いリスク(テールリスク)を抱え込みます。

小額資金だからこそ“大きく張る”のは誤り

資金が小さいほど、1回のリスクを小さくする以外に生存確率を高める方法はありません。

逓増(勝った分だけロットを増やす)で時間を味方にし、複利を活かすのが王道です。

実感しやすい指標:連敗に何回耐えられるか

破産確率は見えにくい数字ですが、「自分の設定で、何連敗まで耐えられるか」を口座の壁として意識すると行動が変わります。

たとえば、資金100万円・1回2万円(2%)の損失上限・撤退ライン50%なら、概算で35連敗に耐えられます。

勝率50%の戦略で35連敗はほぼ想定外。

ところが、1回10万円(10%)にしてしまうと7連敗で半減。

勝率50%でも100回のうち半分以上の確率で起こりえます。

この差は、技術ではなく「賭け方」の違いだけで生まれます。

今日からできるミニチェックリスト

  • 1回の許容損失=資金×1~2%を超えていないか
  • ロットはストップ幅から逆算しているか(価格ではなく金額起点)
  • 日次・週次の損失上限と、ヒット時の停止ルールは明文化済みか
  • 相関の高い通貨を同方向に重ねていないか
  • 維持率の下限・実効レバ上限を口座画面で常時確認できているか

まとめ:勝ち方より“負け方”が資金を守る

破産確率とは、トレードの「負け方の設計」を数値でコントロールするための土台です。

相場は読めなくても、賭け方は選べます。

1回のリスクを小さく、ルールに従い、ボラに応じてロットを調整し、損失にフタをする。

これだけで、同じ手法でも生存率は劇的に上がります。

生き残る者だけがチャンスを掴める——その当たり前を実現する鍵が、破産確率を意識することなのです。

どうすれば破産確率を下げられる?レバレッジ・損切り・資金管理のコツは?

破産確率を下げる核心は「生き残る設計」

FXで長く資金を守る鍵は、当て勘ではなく事前に破綻しにくい設計を作ることです。

利益はコントロールできませんが、損失とリスクは設計でかなり抑えられます。

ここでは、レバレッジ・損切り・資金管理を実務的に組み合わせ、破産確率を下げるための具体策をまとめます。

レバレッジの正体と適正値の決め方

レバレッジは「証拠金に対してどれだけのポジションを持っているか」を表す倍率です。

大切なのは、口座に実際に乗っている負荷=実効レバレッジを常に把握すること。

実効レバレッジを把握する

実効レバレッジ=(保有する通貨の総額)÷(口座資金)。

例えば口座100万円で、USD/JPYを合計20万通貨ならポジション総額は約2,000万円。

実効レバレッジは20倍です。

含み損が増えるほど実効レバレッジは上がり、維持率が下がります。

維持率の“危険水域”を前もって線引き

強制ロスカットの水準は業者で異なるため、自分専用の危険水域(例:証拠金維持率300%以下で新規不可、200%で強制縮小)を決め、ブレイクしたら機械的に枚数を減らします。

維持率を見ないままのトレードは、破産確率を跳ね上げる最短ルートです。

「最大実効レバレッジ」を上限固定

トレンド戦略や逆張り戦略に関わらず、上限の実効レバレッジ(例:5~8倍)を先に決め、その範囲でロットを調整します。

ボラティリティが高い局面では同じロットでもリスクが大きくなるため、上限は常に意識して更新します。

損切り設計の順番を固定する

破産確率を最も下げるのは、損切りの「順番」を固定すること。

おすすめは金額 → ロット → 価格の順です。

手順1:許容損失額(1回)を決める

1回のトレードで失ってよい金額を、口座の0.5~1.5%程度に固定します。

口座100万円なら5,000~15,000円。

これにより、連敗しても致命傷になりにくくなります。

手順2:損切り幅はボラティリティ基準で

損切り幅は直近の値動きに合わせます。

代表的なのがATR(平均真の値幅)。

例)ATRが25pipsなら、損切り幅を1.5~2.5×ATR(約38~63pips)に設定。

値動きに見合わない狭すぎるストップは、ノイズで刈られ、期待値を崩します。

手順3:ロットは「許容損失額 ÷(損切り幅×1pips価値)」

ロット計算を毎回同じ式で行い、感情の介在を排除します。

損切り価格は計算結果から逆算で置けば、チャートへの思い込みを防げます。

時間損切りと“災害対策”ストップ

時間損切り:想定の時間内に優位性が発揮されなければ撤退(例:欧州入り後2時間でブレイクしなければ手仕舞い)。

災害対策ストップ:急変時に機能する深めの最終ストップを用意。

週末・重要イベント前はポジション縮小かクローズでギャップに備えます。

ロット計算の実例:USD/JPY

口座残高100万円、1回の許容損失1%=1万円。

ATRから損切り幅を40pipsとする。

USD/JPYの1pips価値は「1万通貨で約100円」と仮定。

  • 損失額=40pips × 1pips価値 × ロット(万通貨)
  • 1万円=40 × 100円 × ロット
  • ロット=1万円 ÷ 4,000円=2.5万通貨

発注は2万通貨でキリよく調整し、スリッページや約定コストを考慮して少し余裕を持たせるのが実務的です。

“一回・一日・一週間”の三重リミット

破産確率は、1回の損失だけでなく、連敗の管理で大きく変わります。

三重にフタをします。

1回:Rで管理する

Rとは、1トレードのリスク額(例:1万円)を1Rとする考え方。

損益はR単位で記録し、RR(損益率)と勝率の組み合わせがプラス期待値かを定期確認します。

1日:最大損失2~3R

1日で-2Rや-3Rに達したら新規を止めます。

相場と自分の相性が悪い日の“深追い”は破産確率を加速させます。

1週間:最大損失5~7R

週の損失上限に触れたら“振り返り週”に切り替え。

ロット半減や休場で、メンタル・手法のリセットを優先します。

相場の荒れに応じた“自動減速”

ボラティリティが上がると同じロットでも損益の振れ幅が増えます。

ATR連動のロット自動調整を導入しましょう。

  • 基準ATR(直近20日など)と現在ATRの比でロットを乗算
  • 例:現在ATRが基準の1.5倍 → ロットを2/3に縮小
  • 突然の拡大には“臨時縮小(半分)”ルールを併設

この仕組みだけで、荒れ相場でのドローダウン速度を大幅に下げられます。

イベント・週末・ギャップへの備え

予測不能の“窓”は破産確率の温床です。

次を徹底します。

  • 重要指標・要人発言・中銀会合のカレンダーを前日セット
  • イベント前はロット縮小、または建玉クローズを基本
  • 週末は建玉の持ち越し量を制限(例:通常の1/3)
  • スワップ狙いの長期保有は、決済指値と最終ストップの両方を必ず設置

ポジションの相関を意識して“見えないレバレッジ”を減らす

USD/JPYとEUR/JPYのロングを同時に持つと、実質は円ショートに偏ります。

見かけのロットが分散でも、ファクター(通貨やリスク要因)が重なると連敗確率が上がることに注意。

  • 同一通貨偏重を避ける(最大エクスポージャーを設定)
  • 同時保有は2~3ポジションまで、合計リスクは2R以内
  • 相関が高い組み合わせは、片方のストップを浅くするかロットを減らす

トレーリングと部分利確で“放置リスク”を下げる

勝ちポジションを守る仕組みは、負けを取り戻そうとする心理を抑えます。

  • 建値ストップ:含み益が1R進んだらストップを建値へ
  • 段階的な利確:目標の50%で半分利確、残りはトレール
  • 時間分散の利確:要人発言やロンドンFIXの前に一部縮小

コスト・スリッページの管理が期待値を守る

スプレッド・手数料・滑りは“見えない損失”。

スキャルや高頻度の短期ではなおさら効きます。

  • 実効コスト(平均スプレッド+平均滑り)を月次で測定
  • 執行品質の悪い時間帯(早朝・指標直後)を避ける
  • 約定力の高い口座やVPSの活用でレイテンシを短縮

メンタルの暴走を止める“行動ルール”

破産リスクの多くは、ルール逸脱から生まれます。

行動を先に決めます。

  • 連敗4回で必ずスクリーンから離れる(最低30分)
  • 日次レビューをテンプレ化(根拠・実行・結果・改善の4項目)
  • 睡眠不足・高ストレス日は新規見送りの“イエローカード制”

リスクリワード設計:勝率より“平均損益比”を優先

破産確率は勝率だけで決まりません。

平均利益 ÷ 平均損失(損益率)が1.2以上確保できると、勝率50%前後でも口座は増えやすく、連敗にも耐えやすくなります。

損益率が1未満の高勝率戦略は、連敗期に脆弱です。

バックテストとモンテカルロで“最悪”を想定

過去検証の結果は一つの軌跡にすぎません。

勝敗の並びをシャッフルするモンテカルロシミュレーションで、最大連敗や最大ドローダウンの分布を把握し、ルールを上書きします。

  • 想定最大連敗+2回に耐える資金・ロットにする
  • 最大ドローダウン見積もりの1.3倍を安全マージンに
  • 年に1回はパラメータを固定したまま再検証し、劣化を監視

チェックリスト:今日から導入できる10のルール

  1. 1回の許容損失を口座の1%以内に固定
  2. 最大実効レバレッジ(例:8倍)を超えたら自動で縮小
  3. 損切り幅はATRベース、ロットは式で決める
  4. 1日の損失上限を2~3Rに設定し、到達で取引停止
  5. 週次の損失上限を5~7R、到達で振り返りへ
  6. イベントカレンダーを毎朝確認、前後はロット削減
  7. 相関高い同時ポジションの合計リスクを2R以内
  8. 含み益1Rで建値ストップ、半分利確で残りをトレール
  9. 約定コストを月次で数値化、時間帯と口座を見直す
  10. モンテカルロで最大連敗とDDを想定し、余裕を持って運用

小資金スタートの安全運転モデル

口座30万円、1回の許容損失0.8%=2,400円。

EUR/USD、損切り幅20pips、1pips価値は1万通貨で約1ドル(約150円相当と仮定)。

ロット=2,400円 ÷(20×150円)=0.8万通貨(8,000通貨)。

新規は1日最大2回、損失は合計-2Rで停止。

週末・指標前はポジション半分。

これだけで、破産へ至る“資金の谷”に落ちる確率を大きく減らせます。

避けたい行動パターンと代替案

  • ナンピンの雪だるま化 → 部分損切り+時間撤退で平均取得単価依存を回避
  • 負け後のロット増額 → 直近3トレードがマイナスならロットを半減
  • ストップ削り → ストップ短縮ではなく、最初からボラに合わせて設定
  • 際限なき裁量 → エントリーとエグジットの“根拠リスト”を固定し、抜け落ちたら見送り

結論:利益は結果、破産回避は設計

市場はコントロールできませんが、レバレッジの上限、損切りの順番、資金の三重リミット、相関とイベントの管理は今日から設計できます。

これらのルールは、勝ちを増やすためだけにあるのではなく、負けを一定に抑え、連敗期を耐え抜くための安全装置です。

設計を数値で固定し、毎日同じ手順で実行する。

その積み重ねが、破産確率を小さくし、チャンスが来たときに立っていられる“生存力”を育てます。

自分の取引で破産確率をどう測り、どの水準を目安にして、どの頻度で見直せばいいの?

「破産」を自分で定義するところから始める

破産確率を測るには、まず「破産」を数値で定義しておく必要があります。

一般的には次のいずれか、または併用で設定します。

  • 最大許容ドローダウンを超える(例:口座残高がピーク比−30%に到達)
  • 証拠金維持率がブローカーの基準を下回る(例:100%を割り込みロスカット)
  • 運用停止ラインに触れる(例:初期資金の−20%で一時停止)

この記事では説明を明確にするため、「破産=最大許容ドローダウンに到達」として話を進めます。

証拠金維持率で管理している場合も、維持率が危険域に入る手前の損失率を「破産ライン」に読み替えれば同じ手順で評価できます。

準備データ:期待値をざっくり推定する

破産確率の推計には、以下の3つを用意します(過去トレード記録またはバックテストから)。

  • 勝率 p(例:0.45)
  • 平均損益比 B(平均利益 ÷ 平均損失、例:1.3)
  • 1回あたりのリスク r(口座に対する%、例:1%)

加えて、評価期間の取引回数 N(例:年間200トレード)と、最大許容ドローダウン D(例:30%)を決めます。

サンプル数が少ない場合は、勝率pを控えめに置く(観測値から−5~10ポイント)か、後述のモンテカルロ法で安全側に評価しましょう。

方法A:連敗ベースの簡便法で“当たり”をつける

実務で使いやすく、誤差の傾向も把握しやすいのが「連敗に何回耐えられるか」で見積もる方法です。

計算手順(独立試行の近似)

  1. 許容ドローダウン D と1回リスク r から、耐えられる最大連敗回数 L を計算する。L = floor(D ÷ r)
  2. 負ける確率を q = 1 − p とする。
  3. 評価期間 N トレードの中で、長さL以上の連敗が「少なくとも1回」出る確率を近似する。

    目安式:P(連敗 ≥ L) ≈ 1 − (1 − q^L)^(N − L + 1)

この式は「トレードごとに独立」「1回の負けで減る額が一定(1R)」という前提での近似です。

厳密ではありませんが、リスクの大小を判断するには充分に有用です。

具体例でイメージを掴む

前提:資金100万円、1回リスク r=1%(=1万円)、許容ドローダウン D=30%(=30万円)、勝率 p=45%(q=0.55)、N=200。

  • L = floor(30% ÷ 1%) = 30 連敗
  • q^L = 0.55^30 ≈ 7.7×10^-9(ほぼゼロ)
  • P(連敗 ≥ 30) ≈ 1 − (1 − 7.7×10^-9)^(171) ≈ 1.3×10^-6(約0.00013%)

ほぼ起きません。

では、同じ条件で1回リスクを5%に上げるとどうなるか。

  • L = floor(30% ÷ 5%) = 6 連敗
  • q^L = 0.55^6 ≈ 0.0277
  • P(連敗 ≥ 6) ≈ 1 − (1 − 0.0277)^(195) ≈ 1 − 0.9723^195 ≈ 99.6%

一気に「ほぼ破産」へ跳ね上がります。

1回のリスク r を小さくすることが破産確率を劇的に下げる、という直感が数値で確認できます。

方法B:モンテカルロで実際のリスクを“見に行く”

連敗法は簡便ですが、実際のトレードは「勝ち負けの大きさ」が一定ではありません。

平均損益比Bが1を外れる、テール(大勝・大敗)がある、相場のボラが変わる、といった現実的な要素まで含めて測るには、モンテカルロ・シミュレーションが有効です。

スプレッドシートでの作り方(例)

  1. Rの定義:1R = 1回の許容損失額。勝ったら +B R、負けたら −1R とする。
  2. 行にシミュレーション回(例:1~5000回)、列にトレード番号(1~N)を並べる。
  3. 各セルで乱数を使い、IF(RAND() < p, +B, −1) のR収益を生成。
  4. 各行で累積Rと最大ドローダウン(ピークからの落ち幅)を計算。
  5. 最大ドローダウンが D(R換算では D ÷ r)以上になった行を「破産」とカウント。
  6. 破産行の割合が推定破産確率(例:5000回中25回=0.5%)。

ログ収益(対数)で足し合わせたり、スリッページ・ギャップの外生ショックを一定確率で混ぜる(例:0.5%の確率で −3R)と、より現実に近づきます。

どれくらい回し、何を見るか

  • 試行回数:最低1000、可能なら5000~10000回。
  • 評価:破産確率、最大ドローダウン分布、回復に必要なトレード数、年率リターン分布。
  • 感度分析:r、B、p、N、テールショックの頻度・大きさを動かして、破産確率の変化をヒートマップ的に把握。

どの水準を目標にするか(実務目安)

前提として「評価期間」を決めます。

多くのケースでは、次のいずれかが現実的です。

  • 次の100~250トレード(約3~12カ月に相当)
  • 年間(会計期間)

目安水準は以下を推奨します。

  • 保守的運用:評価期間あたり破産確率 0.1%以下
  • 標準:同 0.5%以下
  • 攻め:同 1%以下(ドローダウン耐性・資金追加計画がある場合に限る)

加えて、証拠金維持率の安全域も数値で決めておきます。

例として「常時300~500%以上をキープ。

250%割れで新規停止、200%接近で強制縮小」といった二重の基準を設けると、想定外のボラにも強くなります。

見直しの頻度とトリガー

頻度は「定期+イベント」で二段構えにします。

定期レビュー

  • 毎月または50~100トレードごと(早い方)に、p・B・rを更新し再測定
  • 四半期ごとにモンテカルロを回して分布の形を再確認

イベントトリガー見直し

  • ドローダウンがピーク比 −10%、−15%、−20%に到達(階段で厳格化)
  • ボラ急変(主要通貨のATRや実効ボラが直近3カ月平均の1.5倍以上)
  • 期待値の変化(直近100トレードのp×B − (1−p)がゼロ近傍まで低下)
  • 規制・スプレッド拡大・約定品質の悪化が確認されたとき

これらのトリガーが発生したら、1回リスク r の引き下げ、ポジションの総量縮小、相関の高い通貨ペア同時保有の解消などを即時実施します。

「破産確率が高すぎる」と出た場合の下げ方

影響が大きい順に手を入れるのが効率的です。

  1. 1回リスク r を下げる(例:2% → 1% → 0.5%)。連敗法のLが倍々に伸び、破産確率は急低下します。
  2. 損益比Bの底上げ(利確の位置調整、部分利確の遅延、コスト圧縮)。Bが0.1上がるだけで期待値は大きく改善します。
  3. 勝率pの微調整(エントリーフィルター、時間帯の選別、ニュース回避)。
  4. 同時保有の相関低減(EURUSDとGBPUSDの同方向は合算レバで管理)。
  5. テール損の上限設定(週末はロット半減、イベント直前は建玉を軽く)。

なお、勝率だけを上げるために損切りを遠ざけるのは、多くの場合Bを悪化させ、逆に破産確率を押し上げます。

改善はpとBのバランスで行うのが鉄則です。

参考:等幅ゲーム近似の目安式

平均利益と平均損失がほぼ同じ(±1R)で、毎回1R固定で賭ける近似が成立するなら、偏りのあるコイン投げの「破産確率」の近似として次が使えます。

  • p > 0.5 のとき、初期のバッファが T R ある場合の破産確率 ≈ (q / p)^(T+1)

ただし実売買では±1R対称が崩れやすいため、過信は禁物。

実務では前章の連敗法とモンテカルロを主とし、これは補助的な目安に留めましょう。

チェックリスト:測定から改善までの一連の流れ

  • 1. 破産ライン(D)と評価期間(N)を数値で決めたか
  • 2. 勝率p・損益比B・1回リスクrを最新データで更新したか
  • 3. 連敗法でLと P(連敗 ≥ L) を計算したか
  • 4. モンテカルロで破産確率とドローダウン分布を確認したか
  • 5. 目標水準(0.1~1%)を満たしているか
  • 6. 満たさない場合、r・B・p・相関のどれをどれだけ動かすか決めたか
  • 7. 証拠金維持率の安全域と行動トリガーを数値化したか
  • 8. 定期レビューとイベントトリガーが運用ルールに組み込まれているか

小さな工夫で精度を上げるコツ

  • 初期サンプルが少ないときは、観測勝率から5~10ポイント引いた保守値で計算。
  • Rのばらつき(勝ちR・負けRの分散)をモンテカルロに反映。正規分布で近似、または実測Rのリストからランダム抽出。
  • ギャップ損は稀に −2R~−5Rが起こるイベントとして混ぜる(確率と幅は過去データを参考に)。
  • 通貨ペアの同時保有は、実効レバレッジと相関係数を意識して「見えない合算リスク」を抑制。

結び:不安は“数式”に変えると小さくなる

破産確率は、感覚ではなく数値でコントロールできます。

手順はシンプルです。

破産ラインと評価期間を決め、勝率・損益比・1回リスクを最新化し、連敗法とモンテカルロで測る。

そして目標水準を満たすまで r・B・p・相関・テール管理を調整する。

これを「毎月+イベント時」に淡々と繰り返せば、相場の荒波の中でも生存率は着実に上がります。

勝ち方は相場が決めますが、負け方は自分で決められます。

破産確率という“見えない敵”を見える化し、今日から生存確率の高い設計に切り替えていきましょう。

最後に

破産確率とは、連敗などで資金が強制ロスカットや撤退ラインに達し、取引継続が不可能になる確率。
初期資金、1回のリスク、勝率・損益率、相場の連敗リスクで左右されます。
無視するとロスカット頻発、深いドローダウン、心理崩壊、好機に参戦不能を招くため、リスク比率と撤退基準の設計が重要です。
小さなロットと明確な撤退ラインの設定が生存率を高めます。

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